【映画コラム】「アタック・ザ・ブロック」

aka.Attack the Block

批評家支持率90%!! 『アタック・ザ・ブロック』がやってくる

見逃せない映画が、やっと日本で公開される。
壮絶エイリアン・パニック・ムービー『アタック・ザ・ブロック』だ。
2011年に欧米で公開された際は、
批評家の90%が支持(Rotten Tomatoes)したという超傑作で、
日本でも話題になること必至。
メガホンをとったのは、
本作が映画監督デビューとなるジョー・コーニッシュ。
主役のキャストは映画初出演の新人。
どこまでもフレッシュな面々に聞こえるが、
実は、かなりの実力派揃いが作り上げている要チェック作品なのだ。
舞台は南ロンドン、低所得者層が住む公共団地エリア。
そこにたむろする不良少年たちが、ある時、謎の隕石に遭遇する。
そこから出てきた小さなエイリアンを、彼らは襲撃。
意気揚々とギャングを気取っていると、
半端ではない数の隕石とエイリアンが降ってくる事態に。
しかも、大人のエイリアンはかなり凶暴。
団地に立てこもり攻防するが、埒があかない。
リーダー格の少年はついに、武器を手にエイリアンと対決する道を選ぶ。

少年vsエイリアンという図式は、さほど新しいことではない。
しかし、『アタック・ザ・ブロック』は、とにかく新鮮な面白さを持っている。
それは、少年たちのキャラクターであったり、
エイリアンに遭遇したときの団地住人のリアクションだったり、
シーンのほとんどが夜の団地という閉鎖的な空間設定であったりと、
挙げればきりがない。
これら全てを発案し、脚本を書き上げたのが、
初監督を務めたジョー・コーニッシュである。
日本ではあまり有名ではないが、
本国イギリスでは実力派のコメディ脚本家、俳優として知られる人物。
イギリスで熱狂的なファンをもつシュールなコメディ番組『アダム&ジョー』(1996-2001)で、
脚本兼出演者として人気を博し、
その後も人気コメディ番組のTVドキュメンタリーなどを監督として手がけている。
そんな彼が映画を撮るとあって、バック・アップに入ったのが、
製作総指揮を務めたエドガー・ライト率いるイギリス屈指のヒット・コメディ・メーカー軍団だ。
ライト監督のアクション・コメディ映画『ホット・ファズ–俺たちスーパーポリスメン!-』(07)や、
パロディ・ゾンビ映画『ショーン・オブ・ザ・デッド』(04)をヒットさせた制作陣が、
こぞってプロデューサーに名を連ねている。

さらに、キャスティングに関しても、かなり脇を固めている。
本作が映画初出演にして主人公の不良少年を演じたジョン・ボヤーガは、
演劇経験が豊富とは言え無名の新人に近い状態。
彼が率いる不良少年の面々や、紅一点のヒロインには、
良質映画への出演経験があり、
英インディペンデント映画界では注目株の若手が参加し
ガッチリ演技の質をあげている。
そして極めつけは、ライト監督軍団の1人、
ニック・フロストの存在である。
作品自体、コテコテのコメディではなくクールなアクション仕立て。
冷めた笑いやズレ感、逸脱感を楽しむ作りになっている。
公共団地にいそうな悪ガキたちの行動や会話が、
とにかくウィットに富んでいてニヤリとしてしまうのだが、
その要であり、オチ的な部分では、
やはりニック・フロストの抜けた演技が外せない。

それにしても、エイリアン襲撃という非現実を、
夜の団地で、しかも徹底的に日常の知恵で対処しようとする、
そのアイデアこそが『アタック・ザ・ブロック』の魅力だ。
何せ無数のエイリアンに対する武器は、ロケット花火とバットと忍者棒、
さほど高性能ではない数丁の銃だけなのだ。
宇宙から飛来するエイリアンを、
原チャリで撒こうとするガキどもの根性がすばらしい。
コーニッシュ監督独自の着眼点が傑出した、発想の勝利である。

【映画コラム】「ハンナ」

aka.Hanna

『ハンナ』魅惑の殺し屋に成長したシアーシャ・ローナンに賞賛と憂慮のため息

映画『つぐない』(07) で弱冠13才にしてオスカー候補となったシアーシャ・ローナン。
最新作『ハンナ』(11) では、16歳の暗殺者に扮し、激しいアクション・スリラーに挑んだ。
才能ある若手女優の新作に、全米の批評家の間では、「魅力全開」との声の一方で、
「作品に難あり」という、相反するため息が寄せられている。

フィンランドの森の奥、
元CIAの父親と2人きりで、プロの暗殺者になるべく訓練を受ける16歳の少女ハンナ。
ある日ハンナは、「用意はできている」と森を後にし、
一人CIAのエージェントへと乗り込んでいく。
ハンナを狙う刺客との駆け引き。
逃走劇の最中に触れたある家族との一瞬のぬくもり。
そしてCIAの凄腕女性捜査官マリッサとの死闘と、
作品全編を通して主演のシアーシャ・ローナンが走り、闘う映画『ハンナ』。
バックに流れるケミカル・ブラザーズのビッグ・ビートが疾走感を加速させ、112分を駆け抜ける。

メガホンをとったのは、ジョー・ライト監督。
ライト監督の作品は、『プライドと偏見』(05) や、
シアーシャを一躍注目の的にした『つぐない』(07) など、
小説原作の落ち着いた時代物というイメージがあったため、
テンポの早いアクション連続の『ハンナ』は新鮮で楽しめた。
無敵の殺し屋に育て上げられたハンナという少女を、
シアーシャは時にサイボーグのように冷酷に、
時に16歳のあどけなさを見せながら巧みに演じている。
「この映画のフックは何と言っても若き才能シアーシャの魅力」と、
New York Magazineでは賛辞の論評を載せている。
その他も概ねポジティブ評価だ。
しかし、シアーシャの演技力には全員納得なのに、
「作品自体はパーフェクトじゃない」と難をつけるコメントが目立つ。
その理由は、微妙に不安定なハンナのキャラクターや場面設定にあるようだ。
Detroit Newsのレビューでは、
「完璧な殺し屋であるはずのハンナが、電化製品に怯えるのはナゼだ」と違和感を伝えた。
Los Angeles Timesも、
「ファンタスティックな世界にしたいのか、超現実的にしたいのか理解に苦しむ」と指摘している。
実際、フィンランドから始まった物語は、
モロッコ、スペイン、ベルリンと場所を移すのだが、唐突感は否めない。
最終的には人の気配ない、荒廃した遊園地での決闘となるため、
現代なのか近未来なのか不確かに映る。
しかしハンナがインターネットカフェに立ち寄る(電化製品に怯えていたのに?) シーンがあるので、
きっとそうかけ離れた世界ではないと想像できる…など、
パーフェクトじゃないと突きたくなる心境もわからなくはない。
将来有望なシアーシャだけに、
そんな矛盾を演じさせては勿体ない、という懸念が多いのだろうか。
かつて、『レオン』(94) のナタリー・ポートマンや、
『ニキータ』(90) のアンヌ・パリローが脚光を浴びたごとく、
「少女×殺し屋」ジャンルの作品にシアーシャ・ローナンがでるならもっと輝けただろう、
という欲張りな要求である気もする。
ハンナの愛読書がグリム童話であることや、
その物語を引用するシーンが随所に盛り込まれているため、
筆者としてはシュールな場面も、
ケミカル・ブラザーズの音楽との相乗効果で映画独自の世界観なのだと割り切れる。
そういったことも全部含めて、
『ハンナ』という作品をアクション・エンターテインメントに仕上げている
シアーシャ・ローナンとジョー・ライト監督は、才気みなぎる黄金コンビなのだと思う。