【映画コラム】「ウォール・ストリート」

aka.Wall Street: Money Never Sleeps

ウォール・ストリート』やっぱり“欲は善”!?

 オリバー・ストーン監督が23年後に出した答えとは?

「“欲”は善です。“欲”は正しい。…“欲”こそ、株式会社USAを立て直す力です」
これは、映画『ウォール街』の中で、
マイケル・ダグラス扮する金融界のドンことゴードン・ゲッコーが、
株主総会で言い放ったスピーチの一節だ。
あれから23年。
『ウォール街』の続編として、
“欲は善”を追求したその後を描いた『ウォール・ストリート』が公開された。
前作では、資本主義社会の暗部を観客に突きつけたオリバー・ストーン監督。
新作で突きつけたのは、心の暗部だ。
1987年に公開された『ウォール街』は、
企業買収とホワイトカラーの犯罪が横行した80年代のウォール街を舞台に、
若手証券マンとカリスマ投資家ゲッコーとの、欲望と駆け引きを描いた作品だ。
オリバー・ストーン監督の代表作になると同時に、
冷酷無比な投資家ゲッコーを演じたマイケル・ダグラスにもオスカーをもたらした。
“Greed is good=欲は善” というゲッコーの台詞は、
映画史のみならず、アメリカの資本主義崇拝を物語る名言として刻まれた。
当時、オリバー・ストーン監督はゲッコーを「悪の父」として描いた。
過剰な資本主義崇拝がモラルの欠如を招くと、
ゲッコーを通して印象づけたのだ。
ところが23年後のウォール街は、
ゲッコーなど取るに足らないほど、
欲は善という考えが肥大化していた。
モラルの欠如は金融界全体に広がり、
かつては社会の暗部だったものが、
もはや公然の欠点となっていた。
新作の中でも描かれた通り、
“欲は善”思想が暴走した結果が金融破綻だったとするならば、
“欲は善”を提唱した男はどうなったのか。
ゴードン・ゲッコーというキャラクターがあまりにも強烈だったため、
彼のその後に釘付けとなった人は多いと思う。
しかし正直、87年の『ウォール街』ほどのわかりやすい答えは出てこない。
描写されるのは、復活を目論むも、ぐらぐらと揺れるゲッコーの心だ。
改心して「良き父」になろうとしたのか、
したたかな投資家人生を送るのか。
どちらともとれる終わり方だ。
ラストシーンをどう解釈するかは観る人それぞれだが、
ひとつ言えるのは、オリバー・ストーン監督のスタンスや、
ウォール街の人の本質は変わらない、ということだろう。
「欲は、確かに正しい。生きる推進力になる。
ただし、モラル付きであればね」というものだ。
結局、人間の欲などモラル次第で善にもなるし、悪にもなる。
そして、人のモラル(=倫理観) ほど、あやふやなものはない。
やや複雑にみえるゲッコーのその後は、
欲望とモラルの天秤のバランスをとるのがいかに難しく、
脆いかを物語っているように映る。
見る側は、欲望の為に自己のモラルをどこまで危険に曝すことができるのかを
自問自答することになる。
“欲は善なのか?”の真の答えは、
天秤を手にした人にしかわからないもののようだ。