『リアリティ』圧巻の82分 ドキュメンタリードラマが映し出す真実とフィクション
FBI捜査官2人によるリアリティ・ウィナーへの尋問を、一語一句再現したとされる映画『リアリティ』。
ドキュメンタリーの要素を持ちつつも、ドラマ性の高い稀有な作品である。
© 2022 Mickey and Mina LLC. All Rights Reserved.
背景は、こうだ。
2016年のアメリカ大統領選挙に、ロシアが介入したのでは? という疑惑に始まる。
NSA(国家安全保障局)の契約社員であったリアリティ・ウィナーが、この疑惑に関する捜査情報をメディアにリークしたというのだ。
アメリカ合衆国の第45代大統領ドナルド・トランプ政権で、最大の内部告発となったこの事件。
25歳のNSA契約社員リアリティ・ウィナーによるものであることが判明すると、FBIは彼女を逮捕した。
この映画は、その逮捕劇当日の、リアリティの自宅で行われたFBIによる尋問の一部始終を網羅したものである。
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果たしてこれは、ドキュメンタリーなのか? それともドラマなのか?
映画は、リアリティが買い物から帰宅するシーンから始まる。
すると、見知らぬ男性2人が彼女の車の窓をコツンと叩き、『やぁ、気分はどう?』などと気軽に話しかける。
しかし、男たちがFBIの捜査官であることが明示されると、即座に【ICレコーダー】のスイッチが入れられる。
そして、「本作の台詞は全てその書き起こしである」とのテロップが入り、FBI捜査官とリアリティ・ウィナーとのやりとりが鮮明に描かれていくのだ。
気さくな会話が続いたのち、FBIの捜査官たちがドバッと現れ、リアリティの自宅の家宅捜査がバタバタと執り行われてゆく。
時折、FBI捜査官やリアリティの姿が突如消えるシーンがある。
それは、音声が削除された証。いわゆる黒塗りの会話であったことを観客に想起させる。
つまりこの映画は、FBI捜査官の咳払い一つ、リアリティの沈黙、捜査資料から消された会話までも【完全再現】したというわけだ。
そうと聞くと、ドキュメンタリー要素の強い作品と言える。
真実を映像化したものに近い。
なぜ「真実」ではなく「真実に近い」と言いたいのか。
この作品の音声は確かに真実なのだろう。
しかし、映像についてはドラマ性が高いからだ。
リアリティは果たして、シドニー・スウィーニーが演じたような顔で、FBI捜査官とやりとりをしたのだろうか。
挟まれる回顧シーンはどこまで真実なのだろう、と姑息にも考えてしまうのだ。
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真実とフィクションの狭間で揺れるドラマが、この作品のみどころ。
私は常々思うのだが、ドキュメンタリーとてディレクターの眼というフィルターが入るのだから、全くの真実とは言えないと。
どこを切り取るか、どう編集するかで真実はドラマ性を帯びていくものだと。
この作品の圧巻なところは、逆説的だが、そのドラマ性にある。
どこまでも【完全再現】と謳っていながら、一編のミステリーのようにみえるからだ。
FBI捜査官による尋問で、キリキリと追い詰められていくリアリティ。
彼女の顔が、逮捕への恐怖でどんどん歪んでいくドラマ性。
観ているこちらは、今、目の前で起こっている出来事かと錯覚するほど、緊迫感で胸が締め付けられていく。
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ドキュメンタリードラマという枠を凌駕する、映像の迫力を味わう。
この作品を撮ったのは、「Is this A Room」という、本作の原点といえる舞台をオフ・ブロードウエイで上演していた劇作家のティナ・サッターである。
演劇の方も、FBI尋問記録を再現したものであった。
今回、映像化にあたってサッター監督は、リアリティのアップや、視線、表情をどのように強調するか、カメラワークをどう工夫するかを考え抜いたと語っている。
やはりこの作品は、真実に近い、サッター監督による【ドラマ】なのだ。
忘れてならないのは、主人公を演じたシドニー・スウィーニーの存在である。
政権を揺るがすほどの事件の主・リアリティを、圧巻の演技で貫き、スクリーンを生臭くしている。
真実にこだわったサッター監督と、真実を超えるスウィーニーの演技がタッグを組んだ傑作映像作品であると言いたい。
題名:『リアリティ』
公開:11月18日(土)シアター・イメージフォーラム、シネ・リーブル池袋ほか全国ロードショー
画像・映像の©表記:© 2022 Mickey and Mina LLC. All Rights Reserved.