彼女はスターになった。
とてつもない代償と引き換えに。
この作品は、有名映画の舞台裏を覗き見するようなものじゃないの。
一人の女優の、傷ついた女性の心のうちを炙り出したドラマなのよ。

駆け出しの女優マリア・シュナイダーは、
新進気鋭の映画監督ベルナルド・ベルトルッチに出会う。

そこで彼女は、ベルトルッチ監督の新作へ出演することを承諾するの。
その映画のタイトルは、「ラストタンゴ・イン・パリ」。
後にベルトルッチ監督の代表作となる。

大胆な性的描写が物議を醸し、芸術か卑猥かで論争が起こった問題作でもあった。
「70年代最大のスキャンダル」とまで言われた作品の撮影過程で、
一体何が行われていたのか。
その一部始終、さらには渦中の女性となった
マリア・シュナイダーの、その後の人生を描いたのが
映画『タンゴの後で』なのね。
当時マリアは19歳。未成年だったの。
48歳のマーロン・ブランド相手に撮影された過激なシーンは、
マリアにとっては性暴力でしかなかった。

このことがトラウマとなったマリアは、薬に溺れ、
他者からの愛や承認を得たいともがく人生を送ることになるの。
キラキラした世界への憧れが一瞬にして絶望へと変わった訳よね。

多面性をもち、変貌していく難しい役どころを演じたのは、
アナマリア・ヴァルトロメイさん。
13歳でデビューし、数々の賞に輝く有望株。
とにかく目力が強烈な俳優さんだと思ったわ。

メガホンを取ったのは、なんとベルトルッチ作品でインターンをしていたという
ジェシカ・パルー監督。
ベルトルッチ監督作品を敬愛していたと同時に、
「ラストタンゴ・イン・パリ」で、
マリアをどのように演出したのかについては、
ずっと疑問を持っていたのだそう。

ところで、なぜ今、この作品だったんだろう?
って疑問が湧いたのよね。
『タンゴの後で』は、ジェシカ・パルー監督にとっては長編2作目。
マリア・シュナイダーが58歳の若さで亡くなったのは2011年のこと。
10年以上の時を経て制作されたことになる。
パルー監督は長年助監督をした後、監督デビューをしているのだけれど、
マリアの物語は、自信の助監督時代と重ね合わせて心に強く響いていたらしい。
そして、彼女のことを綿密にリサーチしていたのよ。
そしたら、70年代に彼女が発信していた「NO」という叫びに誰も反応していなかった。
しかも現代でも似たようなことが未だに行われていることに愕然としたわけ。
<br>で、これは普遍的なテーマだと思って制作に踏み切ったそうよ。

パルー監督は、「トラウマのゆっくりとした毒」を描きたかったと語っているわ。
誰かを非難するとか、裁くものではなくてね。
ただ、今なお映画の撮影現場で起こっていることへの警鐘であることは間違いないわよね。
「裏切りや操作は、映画を作るための必要な手段ではない」って。
映画は人間の本性を描きだす芸術だけど、
それが誰かの犠牲の上にあってはならない、と私は思うわ。
ラストのマリアの視線をあなたはどう受け止めるかしら。
邦題:タンゴの後で
監督・脚本:ジェシカ・パルー
出演:アナマリア・ヴァルトロメイ『あのこと』、マット・ディロン『クラッシュ』、
ジュゼッペ・マッジョ、イヴァン・アタル、マリー・ジラン
2024年 / フランス / フランス語 / 102分 / カラー / 5.1ch / PG-12(暴力描写や性的描写が含まれます)/
原題: Maria /英題:Being Maria / 日本語字幕:岩辺いずみ /
原作:「あなたの名はマリア・シュナイダー ―「悲劇の女優」の素顔」 (早川書房・刊) /
協力:CHANEL
配給:トランスフォーマー
2024 © LES FILMS DE MINA / STUDIO CANAL / MOTEUR S’IL VOUS PLAIT / FIN AOUT
9月5日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
