Film,  選ばなかったみち

『選ばなかったみち』現実と妄想が重なった先にあるのは!? 娘と父の24時間ドラマ


© BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND THE BRITISH FILM INSTITUTE AND AP (MOLLY) LTD. 2020


泣いた。

久しぶりに泣いたわ。


映画の筋書きは至って単純。

認知症の父親を歯医者と目医者へ、娘が介護しながら連れていく。

それだけなの。


けどね、その現実に、認知症の父親の妄想が2つ入り組んでくるの。

1つが、メキシコ出身の父親のアメリカに移住する前の昔話。

もう1つが、作家だった父親がギリシャへ執筆旅行へ行った時の話。

父親が過去に「選ばなかったみち」につながるストーリーたち。


つまり、親子は一緒の24時間を過ごしているんだけど、

パパ(父親)はずーっと現実から離れて過去の深層へと潜り込んじゃってて、

ちっとも交わらない。っていうジレンマが続くっていう構造。


で、どこが泣きポイントかって、

ずっと交わることのない親子の心は本当に通じ合うのか!?ってところよ。

それを見届けた時、込み上げてくるものがあるはずよ。きっと。


でも現実は過酷。

Water(水…)っていうから、コップに水汲んであげるでしょ。

飲むでしょ。

そしたらおしっこジャー。

そこまでもう認知症が進んじゃってるのね、父親は。


娘はそれを笑顔で、「ばっちいですね〜」って言いながら

ズボン履き替えさせたりして、なんとか医者に連れてくの。

本当は、娘自身すっごく大事な仕事の日だったんだけど、

パパに付き合ってあげちゃう。健気にね。



うつろで上の空の父親をハビエル・バルデムっていう

スペインを代表する演技派俳優さんが演じてる。


日本で言えばもう役所広司さんとか、

佐藤浩市さんなんかを彷彿とさせる、

顔の筋肉で演技しちゃう的な(!!)スゴい人。


で、パパのおしっこの処理もやりながら、

なんとか父親と心を通わせたいと頑張る娘を、

エル・ファニングさんが演じているわ。


© BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND THE BRITISH FILM INSTITUTE AND AP (MOLLY) LTD. 2020

お姫様役とか、お嬢様役を想像しがちだけど、

今回は、壮絶・悶絶、絶望と希望を

ハビエル・バルデムとバチバチやり合ってる。


エル・ファニングさんの必死の形相は、

見ているだけでこっちが切なくなっちゃう。


私は、娘の立場に入り込んじゃったな。

現実世界では、娘が必死に心を通わせたいと父親の顔を覗き込むの。

わかりたくて、近づきたくて、父親に、なんとか娘はすがりついてく。


でも父親の視線はそぞろで、

娘の存在すらわかってんだかどうだか、って行動ばかり。


© BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND THE BRITISH FILM INSTITUTE AND AP (MOLLY) LTD. 2020

例えばそれは、父親の過去の「選ばなかったみち」とも関連してる。

こともあろうかこのパパさん(父親)、

娘が幼い頃、うるさくて煩わしいからと、

母子を置いてギリシャに執筆旅行に出かけちゃってたわけ。

で、もし、そのまま母子を置き去りにしていたら?って妄想したりするのよ。

ひどい選択よね。

ギリシャの海を漂ってないで、

ちゃんと母子のところに戻りなさいよ!って突っ込みたくなっちゃう。


ところで、サリー・ポッター監督の映像はとても詩的よね。

薄くて儚い水彩の一筆を幾重にも重ねて、

重ねてって紡いでいく感じっていうのかな。

どのシーンもデリケートで繊細

でも、決してふわふわしてないの。


人間の心の儚さを嘆いたと思ったら、

ドスンっと深い闇の部分を突きつけてきたり。

いつも、どの作品にもそういう匂いを感じるわね。


今回の「選ばなかったみち」もそう。

妄想と現実とをスルッと行き交うんだけど、

そのスマートさったら、美しい!の一言よ。


最終的に父親は何を選んで、誰に視線を注ぐのか。

あぁ、ハッピーエンドなの?と安心するかもしれないけれど、

サリー・ポッター監督はそんなに簡単に観客を許してくれない。

見終わった後、「え?そっちを選ぶの?」みたいな

ドッキリもあるから気をつけて。



2月25日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

© BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND THE BRITISH FILM INSTITUTE AND AP (MOLLY) LTD. 2020

公式サイト:https://cinerack.jp/michi/

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です