『ハウス・オブ・グッチ』熟したレディー・ガガがGGをまた熱くする
シェイクスピア悲劇×劇場版ソープオペラ =リドリー・スコット的ネオ悲喜劇メロドラマ。
この映画を例えるならそんな感じかしら。
ちょっと難しい? 分かりやすく言うね。
さっきまで「椿姫」のオペラが優雅に流れていたと思ったら、
急にジョージ・マイケルの懐メロがガツンとくる。
ホントにそうゆう映画なのよ。
巨匠が新しい感覚で作り出したネオ・ロマンス劇場。
ほら、シェイクスピアの悲劇って、
とてつもないお金持ちや貴族が没落するとか、
ちょっとしたミスや行き違いで悲しいLASTになっちゃうパターンが多いじゃない?
GUCCI一族もそう。
巨万の富。名声。才能を手に入れたはずなのに、結局は崩壊していく。
で、最後は呪いがかったちっぽけな綻びで表舞台を去るの。
でね、その一方では、
まるで昼間見ているようなメロドラマ級のわっかりやすいロマンスがあるわけ。
それが、レディー・ガガ演じるパトリツィアと、
アダム・ドライバーが演じたGUCCI家の孫夫婦の馴れ初め。
この2人のやりとりったら、もう見ているこちらが恥ずかしくなるくらいの
アッツアツだったの。最初はね。
でも運命って残酷よね。
パトリツィアは愛だけで足りる女じゃないのよ。
富も名声も、GUCCI家の一員という肩書きも
ぜーんぶ手に入れたいの。
ただ、肩を持つ訳じゃないけれど、
そんなに性根が悪い子じゃなかったのよ。
一途で、こうと決めたら絶対に諦めない。
良くも悪くもね。
だから裏切られたと知った時、
人生、自分も他人も巻き込んで狂わせちゃう。
パトリツィアは、GUCCI家を崩壊させた女って言われているけど、
一族の没落は時間の問題だったような気もする。
パトリツィアは単にトドメを刺しただけよ。
映画を見る限りではね。
真実なんて、誰にもわかんないわ。闇すぎて。
ところで、ですよ。
なぜ今頃GUCCIの話?ってちょっと意地悪に思っちゃったの。
なんかイベントあったかなぁって。
だってこの話、ほぼ実話で、
GUCCI家の孫(アダム・ドライバー演じるマウリツィオ)が何者かによって銃殺されちゃった事件、
起きたのは1995年のこと。
で、その暴露本とでも言うべき、
この映画の原作
「The House of Gucci : A Sensational Story of Murder, Madness, Glamour, and Greed (原題)」
が出たのは、2001年のこと。20年も前の話なのよね。
まぁ、ぶっちゃけ、
映画化されるまでには紆余曲折があったってことよ。
けどね、これでよかったと私は思う。
最終的に今回メガホンをとったのが、『テルマ&ルイーズ』っていう
超タフな女性たちの物語の映画を撮ってる名匠リドリー・スコット監督。
で、実在するけど、謎・噂・闇多き女性
パトリツィアをレディー・ガガが演じることになって。
如何様にでもできる原作本だったから。
もっとグロくもできただろうし、ミステリアスにもできる。
銃撃事件ってことで重っ苦しくもなるし、
GUCCIってことでスタイリッシュにもできる。
けれど、どこか悲喜劇的な匂いが漂う
今回の演出(オペラと懐メロとかね)と、
ガガさまがここまで熟すのを待っていたって考えると、
このタイミングしかなかったような気がするのよね。
他の女優さんだったら、
リドリー・スコット監督が要求する
こんなチャーミングなネオ悲喜劇メロドラマで
パトリツィアは輝けなかったと思う。
逆説的に言えば、ガガさまがパトリツィアを演じたから、
スコット監督の「ハウス・オブ・グッチ」が成立したと。
しかも、デビューした頃の歌手・レディー・ガガではなくって、
富と名声と、演技の経験も積んだガガさまだから良かったの。
じゃなきゃ、GUCCI家にしがみつくあのギラギラ感。
裏切られた後の野良猫みたいなふらつきと、
その後の黒豹みたいな凄み、
そんな七変化をあんなに可愛く演じられない。
今や、名だたるハイブランドで、
創業者一族がデザイナーを務めているところなんてゼロに等しいわ。
それでもレガシーはずっと残ってる。
それがハイブランドの持つ魔力というか怖さ。
今回改めて思い知らされた感があるわよね。
カール・ラガーフェルドとシャネルのように、
トム・フォードだってGUCCIと組んで出なければ、
どこまで有名になってた?ってところがあるじゃない?
独特の磁力があるのよ。GUCCIはじめ、
創業者の名前が冠のハイブランドって。
誰がデザインしようが、GG (GUCCIロゴ)のド派手な指輪や、
赤と緑のラインって、いつ見ても女子はトキメいちゃうでしょ。
◆作品タイトル: 『ハウス・オブ・グッチ』
◆公開表: 2022年1月14日(金)より全国公開
◆コピーライト: ⓒ 2021 METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC. ALL RIGHTS RESERVED.
◆配給: 東宝東和