Film,  ゴヤの名画と優しい泥棒

『ゴヤの名画と優しい泥棒』ダメダメおじいちゃんの哲学書に”諦める”の文字はない!


©PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020


もう、にくらしい。

タイトルからしてホッコリさせちゃう映画なんでしょ。って思って観たの。


と・こ・ろ・が、ホッコリなんてもんじゃなかった。

あぁぁぁ、おじいちゃん、信念貫いて良かったね。

人間、諦めちゃダメよね。

なんか勇気づけられちゃう映画なのよ。


ダメ夫の象徴みたいな主人公のおじいちゃんが

一端の政治活動家みたく見えちゃうの。

マーティン・ルーサー・キングJr.程じゃないけど。

最終的にはね。


監督は、2020年に急逝したロジャー・ミッチェル

あの『ノッティングヒルの恋人』を作ったイギリスの名監督。

彼の最後の長編映画になっちゃったわ。巨星墜つ。


で、映画ね。

時代は1961年。イギリスの裁判所。

被告はケンプトン・バントン60歳。

あなたはロンドン・ナショナル・ギャラリーから

ゴヤの名画「ウェリントン公爵」を盗みましたか?って裁判官が聞くシーンから始まるの。

ケンプトンおじいちゃんは「いいえ」って言い切っちゃう。

一体半年前に何があったかって言うと…っていう感じで始まる。


©PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020

舞台は、イギリス北部のニューカッスル。

年金暮らしの老夫婦の実生活が可笑しくも切なく描かれているわけ。

タクシー運転手のケンプトン・バントンはどうみてもダメダメ夫。

才能あるとは思えないのに戯曲の執筆をしてる。

それに、年金受給者のBBCテレビ受信料をタダにしろーっていう政治活動に夢中。

(政治活動って言っても、息子が段ボール掲げて本人街角で大声出すだけなんだけど)

案の定、タクシー会社をクビになってパン工場で働いて、結局そこもクビになって…。

ダメ男っぷりのオンパレードなんだけど、お茶目で憎めないキャラなのよね。


それで、妻のドロシーは、すごい几帳面で

裕福な議員さんのお宅の家政婦をして家計を支えているって言う図式。

息子はというと、ちょっとやんちゃなお友達もいるけど、

なんとかちっちゃな造船所で真面目に船を作っている。

慎ましい家族よ。


そこへ、小市民には信じ難いニュースがTVに映る。

「ゴヤの名作『ウェリントン公爵』を

イギリス政府が14万ポンド支払って国外流出を留めた」と。


ケンプトンは思うの。14万ポンドを絵画に使えるんなら、

年金受給者のBBC受信料くらいタダにできるだろう、と。

そして、その通りに『ウェリントン公爵』を

ナショナル・ギャラリーから“拝借”して、14万ポンドの身代金を要求したってこと。

年金受給者のBBC受信料に充てるために。


で、裁判のシーンに戻るんだけど。

その裁判のシーンがもう、やられちゃう。


普段はつまんないおしゃべりばっかりしているのケンプトンおじいちゃん。

それがどんどん雄弁に喋りまくるわけ。

それも哲学者みたくすごい金言・名言を。

「私は絵を保持したり、国から永久にそれを奪ったりするつもりはなかった。

(中略) 私の唯一の目的は、豊かな社会で無視されているように見える

老人や貧しい人々のためにテレビの受信許可料を支払うための慈善団体を設立することだった」


これ、実話でね、裁判シーンのセリフも実際のケンプトン・バントンの証言を

かなり忠実に再現しているらしくって、ホントにぐっときちゃう。


もちろん、実話をもとに脚色しているから、

全部裁判所で話したことではないと思うけれど、

どうしておじいちゃんがこんなに信念を貫くのか、他人に優しいのか、

弱者救済に熱心なのかとか、いろんな事情が語られていくわけ。


そうだったんだ。ケンプトンおじいちゃん。

改めておじいちゃんのそれまでの言動に納得するのよ。


でもって、なんであんなダメ夫に

長年ドロシーさんが連れ添っているのかもなんとなくわかっちゃう気がするのよ。



ところで、イギリス人にとっては有名な事件かもだけど、

私たちにとっては市井の老夫婦の話。

そんな話をこれまた超名優たちが嘘でしょ?っていうくらい

イギリス北部に本当に居そうな老夫婦になりきっているのがスゴい。


ケンプトンおじいちゃんを演じたのは、

ハリー・ポッター』シリーズとか『パディントン』シリーズとか、

イギリスものには必ずでているといってもいい

イギリスが誇る俳優ジム・ブロードベントさんね。

(ご本人にびっくりするほど似ている)


©PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020

で、その妻はもう代表作とか言うまでもない、

イギリス・ロンドン生まれの名女優ヘレン・ミレン

クイーン』で女王さまやっていたお方が、

今度は北部なまりのイギリス語を使いこなして慎ましい老家政婦をチャーミングに演じてるの。


どうよ。この夫婦。この顔ぶれだけでも見る価値あるわよ。

それにしても、ケンプトンおじいちゃんは「大した絵じゃないな」って言っていたけど、

ホントのところはどうなのかしら。

実物の「ウェリントン公爵=The DUKE」の絵をみてみたいわね。



『ゴヤの名画と優しい泥棒』 

2022年2月25日(金)

TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

配給:ハピネットファントム・スタジオ

©PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020

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