『蟻の王』同調圧力の怖さが迫る!! 詩集のようなラブストーリーに心が軋む。
心が軋むラブストーリー。
『蟻の王』を一言でいうならそんな感じ。
(c) Kavac Srl / Ibc Movie/ Tender Stories/ (2022)
一編の詩を読んでいるように美しい愛が広がるの。
でもその一方で、同調圧力の怖さがギシギシ襲ってくる。
(c) Kavac Srl / Ibc Movie/ Tender Stories/ (2022)
時代は、1960年代。
舞台は、イタリアのポー川南部にある街ピアチェンツァ。
のどかな街での出来事。
詩人で劇作家、蟻の生態研究者でもある主人公アルドは、芸術サークルを主宰。
そこへ、多くの若者が集っていたの。
その中の一人、エットレと、アルドは互いに惹かれあって行くのね。
(c) Kavac Srl / Ibc Movie/ Tender Stories/ (2022)
でもエットレの家族は、2人を引き離そうと警察に通報。
アルドは、若者をそそのかして犯罪をさせた罪・教唆罪(きょうさざい)に問われる。
一方、エットレは、同性愛を治療するとして矯正施設へ送られてしまう。
宗教的にも、政治的にも、タブーの多かった1960年代のイタリア。
「同性愛」というものは、存在すらしないのだとされていたのよ。
(c) Kavac Srl / Ibc Movie/ Tender Stories/ (2022)
逮捕され、法廷で裁かれることになったアルド。
世間の好奇な目に晒されながら、ひたすら沈黙を続ける。
果たしてこの裁判に罪びとはいるのか。
疑問に思った新聞記者のエンニオは、不気味な社会の不合理に声をあげるの。
(c) Kavac Srl / Ibc Movie/ Tender Stories/ (2022)
実在した芸術家・アルド・ブライバンディとその恋人との出来事が下敷きになっている作品。
それを、まるで一編のポエムのように美しく仕上げたのは、イタリアの偉大な映画監督ジャンニ・アメリオ。
(c) Kavac Srl / Ibc Movie/ Tender Stories/ (2022)
『罪という字を消して勇気と書く。愛という字を消して君と書く…。』
とにかく心に刺さる詩がスクリーンから溢れでるの。
でもね、まるでそのスクリーンを切り裂くかのように迫り来るのが、同調圧力という名の暴力。
「こうあるべき」といった思想を押し付けられることの怖さよ。
(c) Kavac Srl / Ibc Movie/ Tender Stories/ (2022)
アメリオ監督自身、同性愛者であることをカミングアウトしているわ。
でもこの作品には、男性同士の性的な描写はほぼでてこない。
それでも、アルドとエットレの深い愛はひしひしと伝わる。
男性同士であろうが、女性同士であろうが、人が人を愛することに何の違いがあるのかしら。
心を通わせることに何の罪があるのかしら。
性別を強調することこそが、もはやバカバカしい時代だと思うんだけど。
「蟻の王」
11月10日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMA、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
(c) Kavac Srl / Ibc Movie/ Tender Stories/ (2022)
配給:ザジフィルムズ
2022年/イタリア/イタリア語/ビスタ/カラー/Dolby Digital/140分 映倫:G
原題:Il signore delle formiche 英題:Lord of the Ants
字幕翻訳:吉岡芳子