『ボレロ 永遠の旋律』作曲はセクシーだ。音と音が絡まり、人と人が絡まり紡がれる。名曲誕生の裏にある葛藤の物語
名曲「ボレロ」を創った謎多き天才作曲家、ラヴェルの人生がこんなにもエロティックだったなんて!
それは、男女の別とか性的セクシャリティなんかを超えた、もっと人間の本能をえぐるような感情。
新感覚の音楽映画に触れられる作品よ。
スネアドラムが刻まれ、同じリズムが169回も繰り返す。
誰もが聞いたことのある名曲「ボレロ」は、いかにして生まれたのか。
舞台は、1928年のパリ。
作曲家モーリス・ラヴェルは、一音もかけないスランプの真っ只中にいたの。
そこへ、ダンサーのイダ・ルビンシュタインがバレエ音楽の話を持ちかける。
観る者は、いつあのフレーズが閃くのかと手に汗握りながら食い入るわ。
きっと、何かしら素晴らしい導きが起こって、一気に書き上げるのでは?
その瞬間を待つの。
でも、そんな陳腐な期待なんて見事に裏切られる。
なぜなら、あまりにも曲が書けない日々が綴られるから。
叶わぬプラトニックな愛、戦争の傷跡、最愛の母の死…。
盛り込まれるのは、ラヴェル自身の人生を振り返る映像たち。
過去と対峙をしながら、作曲に喘ぐラヴェルの葛藤ばかりが続く。
そして、コレだ! というお知らせもなく、ポロリ、ポロリとあのリズムが繰り出されるのよ。
え、えぇぇ、いつ思いついたの? っていうくらい刹那に。
ラヴェルの指先から、ついにあの旋律が生まれるの。
映画の冒頭、観客は「ボレロ」を通してラヴェルが訴えたかったことをまず叩き込まれるわ。
産業革命がもたらした機械音の連続。
ラヴェル自身、「インスピレーションの多くは、機械から得た」と言っているように、工場に佇むラヴェルと共に、ボレロの旋律のごとく完璧な音の刻みを聞くのよ。
でもね、やっとの思いで書き上げた「ボレロ」に纏われたダンスは、残念ながらラヴェルの思いとはまるで違うものだった。
彼女がつけた振り付けは、まるで娼婦の踊り。
実は、それこそが「ボレロ」の魅力なの。
ルビンシュタインが「ボレロ」から受け取ったのは、本能を揺さぶるエロさだったって訳。
屈辱と落胆の淵に立つラヴェル。
彼同様、私たちはこの作品と通して知ることになるのよ。
音楽とは、作曲して終わりではなく、第三者が奏でて、表現して初めて命が吹き込まれるのだと。
それが、どれほど生みの親の意図しないものとなっても、受け入れなければならないって。
『ボレロ 永遠の旋律』は、天才作曲家が、まるで神の啓示を受けるかのように気持ちよく傑作を書き上げる、といった類いのものじゃない。
むしろ、逆。
まるで、絞り切ったタオルからまだなお水分を出そうとするかのような、クリエイターの苦悩を描くもの。
ストイックなラヴェルを、フランスのセクシーな俳優ラファエル・ペルソナが繊細さ満点に演じている。
ペルソナは、ラヴェル役のためにかなり減量したそうよ。
作曲への情熱とは裏腹に、体は脆かったラヴェルを表現するためにね。
この作品、一番のセクシーポイントはもちろん傑作「ボレロ」なんだけど、
彼の長年のミューズであるミシアとの関係も見逃せないわ。
生涯独身を貫いたラヴェルが、どうしてこれほどエモい曲を書くことができたのか。
ラヴェルがどんなセクシュアリティの人だったかは、映画を見た人の感じ方に任せるとして。
ラヴェルを取り巻く女性たちが、彼の作曲家人生にどんな影響を与えたかが、ひとつのヒントになると思う。
とにかく、「ボレロ」の魅惑の旋律が、どうしても頭から離れなくなるわよ。
タイトル『ボレロ 永遠の旋律』
8月9日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
★スタッフ
監督:アンヌ・フォンテーヌ
★キャスト
出演:ラファエル・ペルソナ、ドリヤ・ティリエ、ジャンヌ・バリバール、エマニュエル・ドゥヴォス、ヴァンサン・ペレーズ
★フィルムデータ
BOLERO/121分/フランス/カラー/シネスコ/5.1chデジタル/字幕翻訳:松岡葉子
★配給:ギャガ
★公式HP:https://gaga.ne.jp/bolero