
『パリタクシー』偶然の出会いが運命の出会いに変わる。マダムとドライバーの人生ロードムービー

マダムの驚愕の人生と、パリの街を疾走するタクシードライバーの人生がロードムービーみたいに紡がれる。
主人公はベテランタクシー運転手のシャルル。残念ながら金なし、休みなし、免停寸前の崖っぷちにいる。
そんなシャルルがある日お迎えに上がったお客は、上品なパリのマダム・マドレーヌ。
92歳のマドレーヌは、住み慣れた家を離れ施設へ向かうという。

「自分の年齢をあててみて」「初めてのキスの味はね…」おしゃべりなマダムに無愛想なシャルルは少々迷惑気味。
けれど、「ちょっと、寄り道してくれない?」その一言から映画はブンブン加速し始めるの。
マドレーヌは最後だからと、パリの思い出の地を巡り出す。
ゆかりの地に向かいながらマドレーヌの半生を聞けば聞くほど、このお婆さま何者!?っていうくらい「えぇぇぇぇ!!」の連続なのよ。
そんなドラマチックなマドレーヌの人生話につられて、ドライバーのシャルルも自分の家族の話をしたりしてね。
すっかり仲良しになっちゃう。
そして2人はちっちゃなパリでとっても深い人生って道のりを旅するのよ。

ほとんどが車中でのおしゃべりなのに、美しいパリの街並みが流れるとか、パリではお約束の渋滞にハマるとか、マドレーヌの思い出話が随時挿入されていくことでほんとにロードムービーみたく旅してる気分になるの。
この旅が永遠に続いてくれればいいのに。
そう思う。
けれど終焉はやってくる。
それが切なくて。
なんだかマドレーヌがシャルルのタクシーに乗車するのは、偶然じゃなくて必然だったような気になってくる。

この映画が素敵なのはパリって街だからじゃない。
ドライバーのシャルルと気品あるマダム・マドレーヌとの掛け合いにある。
喧嘩っ早いシャルルに対して、
「ひとつ怒ればひとつ年老いて、ひとつ笑えばひとつ若返るのよ」とマドレーヌが諭すとかね。
そんな粋な会話が忘れ難いフレーズのメロディーと共に進行していく。

シャルルを演じているのは、フランスを代表する大人気コメディアンのダニー・ブーン。
そしてマドレーヌを演じているのが、これまたフランスの国民的大女優リーヌ・ルノー。
プライベートでも仲が良いという二人の息はぴったり。
腕を組んで歩くシーンがあるのだけれど、まるで恋人同士みたいよ。

この映画を一言で「ハートウォーミング」な作品と言ってしまうのは簡単。
けどね、そんなに単純なものじゃない。
特に女の人生って、ミラクルと衝撃の玉手箱でしょ。

戦後、激動の時代で自由を求めて生きてきたマドレーヌの生き様がとにかく愛おしい。
マドレーヌの最後に残したシャルルへの伝言が深くて。
嗚咽が止まらない。
あなたもきっとシャルルのタクシーに乗ってパリを旅したくなると思うわ。

『パリタクシー』
4月7日(金)新宿ピカデリー、角川シネマ有楽町ほか全国公開
© 2022 – UNE HIRONDELLE PRODUCTIONS, PATHE FILMS, ARTÉMIS PRODUCTIONS, TF1 FILMS PRODUCTION
監督:クリスチャン・カリオン
出演:リーヌ・ルノー、ダニー・ブーン
2022年/フランス語/91分/スコープ/カラー/5.1ch/原題:Une Belle Course/日本語字幕:星加久実
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
配給:松竹

