【海外ドラマレビュー】「ブレイキング・バッド」

aka. Breaking Bad

『ブレイキング・バッド』 全米No.1高評価ドラマは全米イチの問題作

今、全米で最も高い評価を獲ているドラマは何か。
それは、4年連続エミー賞に輝く『MAD MEN』ではなく、
視聴率がいつも上位の『NCIS』でもない。
4シーズン目に突入した犯罪スリル『ブレイキング・バッド』だ。
しかしこのドラマ、放送開始直後から、かなりの問題作として注目されていた。

平凡にコツコツと暮らし、
50歳の誕生日を迎えた高校の化学教師ウォルター・ホワイト。
ある日、末期の肺がんと宣告されたのを機に、
なんと、家族にお金を残したいと、
化学の知識を生かしてドラッグ(覚せい剤)・ビジネスに手を染める。
しかも相棒は元教え子。
このイントロだけでもかなりショッキングなのだが、
2話、3話と進むにつれ、
主人公ウォルターは、さらなる泥沼にはまっていき、
相当なバイオレンスにも遭遇していく。
さぞや暗く、重苦しいドラマなのかと思いきや、
所々にシニカルな笑いがあり、
なんとも言えないシュール感が漂う。
最初は、犯罪が似合わない、
というより無理な、情けないおじさんに見えたウォルターが、
シーズン2ぐらいからは妙な貫禄が出てきて、
哀愁漂う渋いオヤジにすら見えてくる。
そんな主人公のアンチ・ヒーロー度と比例して、
評価はシーズンごとに高まった。
エンターテインメントの総合批評サイト・メタクリティックでは、
2008年の放送開始時、74だった評価値が、
シーズン2で85に、
3では89とジリジリ上がり、
2011年放送のシーズン4で、ついに96というTopポイントに到達した。
また、すでに2010年の段階で、
米・TIME誌の発表したその年のベストTV シリーズでは、
『MAD MEN』を押さえて1位に輝いている。
間違いなく今年のベストドラマにも選ばれるだろう。
人間、将来を悲観すると、ワルい方へ道を踏み外すことがある。
しかし一旦踏み込んでしまうと、もはや後戻りできない。
生真面目だったウォルターの住む世界も、
どんどん犯罪臭の強いものへと移っていく。
見ている方は、「おじさん、もう止めなよ」という反応から、
「次はどんな危ないヤマを渡るんだ?」という興味へと変わっていく。
そうなればもう『ブレイキング・バッド』の面白さにハマった証拠。
ウォルターの生き様を見ずにはいられない心境にさせる、
キャラクターとストーリー展開、そして演出。
全てにおいてクオリティの高いドラマだ。(工藤静佳)

【海外ドラマレビュー】「Life on Mars」「Ashes to Ashes」

aka. Life on Mars, Ashes to Ashes

見るとハマる! 超アナログ捜査でもスタイリッシュな英ドラマ!!

『時空刑事1973 Life on Mars』&『キケンな女刑事~バック・トゥ・80’s〜/ Ashes to Ashes』

今や犯罪捜査ドラマと言えば、最先端技術を駆使する科学捜査モノが全盛だ。
その中にあって、アナログ捜査ながらSFサスペンスの要素をもつという秀逸な刑事ドラマがある。
英ドラマ『時空刑事1973 LIFE ON MARS』と、
そのスピンオフ『キケンな女刑事~バック・トゥ・80’s~ / Ashes to Ashes』だ。
アメリカ制作とは一味違うスタイリッシュな映像と演出、
70年代・80年代の空気感とファッションが楽しめる。

どちらもイギリスBBC制作で、
2006年から2010年にかけて放送されたヒットドラマ。
06年に『時空刑事~』(以下、Life on Mars) が放送されるや否や、
英国のみならず欧米でも人気を獲得し、
国際エミー賞のベストドラマ・シリーズに輝いた。
アメリカではABCがリメイクし、
NY版『ニューヨーク1973/ LIFE ON MARS』を制作。
さらにスペインでもリメイク版が制作された。
日本では少々遅れて登場したものの、
英ドラマ好きの間ではコアなファンを持つ傑作だ。
ストーリーは、主人公のタイムスリップにまつわる謎究明と、
過去の世界での犯罪捜査という2重構造。
『Life on Mars』は、
2006年の現代で連続殺人犯を追っている刑事サムが、
交通事故に遭う所から始まる。
サムが目覚めると、
そこはデヴィッド・ボウイの「Life On Mars?」が流れる1973年だった。
昏睡状態にいるのか、本当にタイムスリップしたのか? 
真相はわからぬままサムは、1973年の世界で刑事として犯罪捜査にあたっていくのだ。
この『Life on Mars』の熱狂的なヒットを受け、
本国BBCで制作されたのが、
スピンオフ・ドラマ『キケンな女刑事~バック・トゥ・80’s~ / Ashes to Ashes 』だ。
原題となっているのは、
前作と同じくデヴィッド・ボウイの1980年発表曲「Ashes to Ashes」である。
今度は2008年にいた女性刑事アレックスが銃弾に倒れた後、
目覚めると1981年へタイムスリップしていたというもの。
彼女は、過去に自分と同じような経験をした刑事サムの存在を知っていて、
現代へ戻るべく捜査を開始するのだ。
この『Ashes to Ashes』のファイナルで、
『Life on Mars』のサムのその後についても明かされる。
70年代当時、科学捜査はまだまだ発達していないため、
サムにとっては全てが超アナログで別世界。
指紋はデッチあげようとするし、
DNA検査なんて現場はハナから信じていない。
自白させるためなら犯人をボコボコにするのだ。
そう聞くと、ぶっきらぼうで暑苦しい刑事ドラマを想像しがちだが、そこは英ドラマ。
少し前の時代をスタイリッシュに描いている。
当時よく走っていたフォード・コーティナや真っ赤なアウディ、
白い革ジャンに白ブーツ、肩パットの入ったジャケット、そして音楽と、
70・80年代のイギリス・ファッションや風景が絶妙にかっこよい。
シリーズを通して最後には、「果たして現代は、よりよい世界になったのだろうか?」
という苦いテーマも透けて見えるあたり、
SF作品に深みをもたせるイギリスならではの思想も伺える。
ただ1点、残念なのはその日本語タイトル。
確かに、デヴィッド・ボウイの曲名そのままでは、
日本で刑事ドラマだと認識するのは難しいだろう。
しかし原題のほうが、両ドラマのもつスタイリッシュさに合っているし、
内容とのリンクもあるのだが…。(工藤静佳)