【映画コラム】「ハンナ」

aka.Hanna

『ハンナ』魅惑の殺し屋に成長したシアーシャ・ローナンに賞賛と憂慮のため息

映画『つぐない』(07) で弱冠13才にしてオスカー候補となったシアーシャ・ローナン。
最新作『ハンナ』(11) では、16歳の暗殺者に扮し、激しいアクション・スリラーに挑んだ。
才能ある若手女優の新作に、全米の批評家の間では、「魅力全開」との声の一方で、
「作品に難あり」という、相反するため息が寄せられている。

フィンランドの森の奥、
元CIAの父親と2人きりで、プロの暗殺者になるべく訓練を受ける16歳の少女ハンナ。
ある日ハンナは、「用意はできている」と森を後にし、
一人CIAのエージェントへと乗り込んでいく。
ハンナを狙う刺客との駆け引き。
逃走劇の最中に触れたある家族との一瞬のぬくもり。
そしてCIAの凄腕女性捜査官マリッサとの死闘と、
作品全編を通して主演のシアーシャ・ローナンが走り、闘う映画『ハンナ』。
バックに流れるケミカル・ブラザーズのビッグ・ビートが疾走感を加速させ、112分を駆け抜ける。

メガホンをとったのは、ジョー・ライト監督。
ライト監督の作品は、『プライドと偏見』(05) や、
シアーシャを一躍注目の的にした『つぐない』(07) など、
小説原作の落ち着いた時代物というイメージがあったため、
テンポの早いアクション連続の『ハンナ』は新鮮で楽しめた。
無敵の殺し屋に育て上げられたハンナという少女を、
シアーシャは時にサイボーグのように冷酷に、
時に16歳のあどけなさを見せながら巧みに演じている。
「この映画のフックは何と言っても若き才能シアーシャの魅力」と、
New York Magazineでは賛辞の論評を載せている。
その他も概ねポジティブ評価だ。
しかし、シアーシャの演技力には全員納得なのに、
「作品自体はパーフェクトじゃない」と難をつけるコメントが目立つ。
その理由は、微妙に不安定なハンナのキャラクターや場面設定にあるようだ。
Detroit Newsのレビューでは、
「完璧な殺し屋であるはずのハンナが、電化製品に怯えるのはナゼだ」と違和感を伝えた。
Los Angeles Timesも、
「ファンタスティックな世界にしたいのか、超現実的にしたいのか理解に苦しむ」と指摘している。
実際、フィンランドから始まった物語は、
モロッコ、スペイン、ベルリンと場所を移すのだが、唐突感は否めない。
最終的には人の気配ない、荒廃した遊園地での決闘となるため、
現代なのか近未来なのか不確かに映る。
しかしハンナがインターネットカフェに立ち寄る(電化製品に怯えていたのに?) シーンがあるので、
きっとそうかけ離れた世界ではないと想像できる…など、
パーフェクトじゃないと突きたくなる心境もわからなくはない。
将来有望なシアーシャだけに、
そんな矛盾を演じさせては勿体ない、という懸念が多いのだろうか。
かつて、『レオン』(94) のナタリー・ポートマンや、
『ニキータ』(90) のアンヌ・パリローが脚光を浴びたごとく、
「少女×殺し屋」ジャンルの作品にシアーシャ・ローナンがでるならもっと輝けただろう、
という欲張りな要求である気もする。
ハンナの愛読書がグリム童話であることや、
その物語を引用するシーンが随所に盛り込まれているため、
筆者としてはシュールな場面も、
ケミカル・ブラザーズの音楽との相乗効果で映画独自の世界観なのだと割り切れる。
そういったことも全部含めて、
『ハンナ』という作品をアクション・エンターテインメントに仕上げている
シアーシャ・ローナンとジョー・ライト監督は、才気みなぎる黄金コンビなのだと思う。