『すべてうまくいきますように』生きるとは。家族とは。その問いにあなたはどう答える?
時に病は人生に絶望をもたらすわよね。
そんな時あなたならどうする?
この作品は壮大な問いかけであって、
とっても個人的な人生の終わり方を考えさせられる映画なの。
フランスの国民的俳優ソフィー・マルソーを主演に迎え、
これまたフランスの名匠と称えられているフランソワ・オゾン監督がタッグを組んだんだから、
何の迷いもなく映画館へ足を運んだわ。
けれども、そんなヒラヒラした思いだけでこの映画をみちゃいけない。
だって、脳卒中で倒れた父親がいきなり「人生を終わらせたい」って尊厳死を切望するのよ。
青天の霹靂!
親にそんな告白をされちゃうのがソフィー・マルソー演じる長女のエマニュエルなの。
気だけは矍鑠(かくしゃく)たる父親は頑固に自分の主張を変えない。
エマニュエルは妹のパスカルと共に躊躇しながらも父親の最後の願いを受け入れようと右往左往。
そりゃもう葛藤の連続。
エマニュエルの母親は長年鬱病でほとんど意思決定は厳しい状況。
娘たちが動くしかしょうがないの。
そう聞くと、ちょっと重苦しい作品なのかな? と思うでしょう。
それが逆。
たまにクスっと笑えるくらいお茶目なシーンが散りばめられている。
だって、尊厳死を希望した父親自身がまるで楽しい旅に出るかのようにスケジュールを相談するの。
皆に言いふらしたりもする。
娘夫婦とお気に入りのレストランで食事してて
「ハハ、最後の晩餐だな」とかごぼすのよ。
観客としてはその時一瞬笑っちゃうんだけど、待てよ。と。
これは死に向かう旅なのに、
どうしてそんなにははしゃげるの?と後からジ~ンときちゃう。
エマニュエルたちもそうなの。
父の旅立ちを頭で納得しようとしても心がそう割り切ってくれない。
人間って、どうも複雑怪奇な生き物よね。
「生きる」と単純に肉体の細胞が動いても、
心はもっとセンシティブに「生きる」を捉えるのよ。
エマニュエルのお父さんみたいにね。
自分らしく「生きる」ことができないなら「肉体」を乖離させようと企む。
そして、その意志があるなら、自分で「肉体」を捨て去ることができる世の中になってきている。
もちろん、フランスで尊厳死は許されていないし、
エマニュエルの一家が裕福だから選択できることではあるけれど。
(エマニュエルの家族ってみんなインテリでね。芸術を愛する一家なの)
複雑といえば、エマニュエルの両親。
父親はどうやら同性愛者でもあったよう。
さらに、ほとんど一緒に暮らしていないのにこの夫婦は「別れない」選択をしている。
そうゆう難問をこの家族は一つ一つ呑み込みながらも「生きて」きたわけよ。
だからこそ父親の「生きる」ことの定義にも納得せざるを得なかった。
エマニュエルが言うの。
父親と「友達だったら良かったのに」って。
そうね。
友達だったら尊厳ある意志をもう少し頭だけで受け入れられるかもしれない。
けれど相手は父親。
密すぎて視界がぼやけちゃう。
最後の方はもはやコメディ!? と思っちゃうほどドタバタ劇になる。
そこがエスプリの効いたフランス映画っぽい。
父親の旅立ちを見送るエマニュエルたちの視界が晴れることはあるのか。
そこのところは観客が自由に想像すべきところ。
ラストシーンのエマニュエル演じるソフィー・マルソーを見逃さないで!!
『すべてうまくいきますように』
2/3(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、
新宿武蔵野館、Bunkamura ル・シネマ 他公開
配給:キノフィルムズ
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