
『アラビアンナイト 三千年の願い』それは狂気か愛か現実か…孤独な物語論博士による千夜一夜物語。

古めかしい小瓶から魔人が現れ、3つの願いを叶えようと人間を誘惑する。
そう、アラビアンナイトの「アラジンと魔法のランプ」のお話。
最初この作品のタイトルを聞いた時、きっとおとぎ話チックでメルヘンな映画だと思ったわ。
でもその想像をはるかに超える絢爛豪華な昔話が出てくる。
そして物語が進むに連れ、これは現実なのか、それとも孤独な物語論の博士が紡ぎ出した妄想なのか。
何が真実で何がフィクションかわからなくなる魅惑に満ちた作品だったのよ。

映画は物語論の博士アリシアの語りから始まる。
「昔々あるところに…」ってね。
けれど小瓶から魔人が出てくると、今度は魔人が昔話を始めるの。

自分が3千年もの間、どんな体験をしてきたか。
魔人が愛した女性たち。
人間の欲望が生み出した悲劇。
そしてなぜ魔人は小瓶に閉じ込められたのか。
それは愛と孤独の狭間を行き来する物語。

この作品、奇想天外で愛憎にまみれたお伽話を繰り広げているようで、
実は女性がどんどん進化していく様も描いているの。
その証として存在するのがアリシア。
知的で、想像力に溢れ、経済的にも精神的にも自立している女性。
他に何が必要? 答えは魔人との会話に潜んでいるわ。

魔人が語るストーリーはどれもアリシアにとっては
これ以上ないほどの愛すべき物語たち。
人間が今世に語り継いできた神話・伝説・寓話がこれでもかっていうくらい登場するんだから。

そこで観客はトラップにハマリそうで真実を探し始めるのよ。
魔人も含め、これはアリシアの妄想なのでは?と。
だって、そもそも語り始めたのはアリシアだったじゃない。
それがおしゃべりな魔人に付き合っているうちに観客すら魔人の話の虜になっちゃうのよ。
この2重構造がこの映画のトラップよ。
あなたは見抜けるかしら。

それにしても、見方次第でロマンスにも狂気の妄想にも思えてくる。
こんな不思議な映画、ジョージ・ミラー監督だから撮れたんじゃない?
奇妙でイマジネーション溢れる映像美はミラー監督ならではだから。
それにプラスして、ティルダ・スウィントンの恍惚とした演技が冴えてる。
観客はラストシーンで物語の世界から目覚めることになるのか?
それとも物語はその先へと紡いでいかれるのか?
どちらかの選択を迫られることになるわよ。
映像が見たくなった方は動画の方もチェックしてみてね!
『アラビアンナイト 三千年の願い』
2月23日(木・祝)よりTOHOシネマズ 日比谷他にて全国公開
配給:キノフィルムズ
© 2022 KENNEDY MILLER MITCHELL TTYOL PTY LTD.

